漆Q$A 漆器を外観から見て素地材を見抜く・漆器を使う文化や歴史など・・・・
漆器を外観から見て素地の材質を知る・日本における漆器を使う文化や歴史など・・・・
1 「食器として漆器はいつ頃から? 」
2 「漆器は高級品で取扱いが面倒だと言うイメージがなぜ生まれたのでしょう? 」
3 「本物の漆器は、なぜ高級品化したのか 」
4 「漆器は使えば使うほどに趣がますとは? 」
5 「良い漆器は下地づくりが大切 」
6 「素地などの違いを見分けるには 」
7 「本物の本堅地漆器は、なぜ高価 」
8 「漆の乾燥とは 」
9 「漆がもつ神秘 」
10 「漆はかぶれると聞きますが? 」
11 「漆器の魅力とは 」
12 「漆器の手入れは具体的にどうすれば良いのでしょうか? 」
13 「しまうときに注意することがありますか? 」
14 「漆器の丈夫さとは 」
現在食器は陶磁器がおもですが、陶磁器が大量に生産されるようにな る以前のことを調べると、昔は飯椀といえば漆器が主流で庶民のレベル にまで、漆器が食器として使われていた。少なくとも飯椀汁椀は漆だっ たとある本に書かれていますが、私見ですが一般庶民の食器に漆塗りが されていたとは疑問です。( 後で調べてみますが ) けれども、鎌倉時代の遺跡で大量の漆の椀・皿が出土していますし、 これらは下級武士達が使っていたものといわれますが相当広く漆器が食 器として使用され出回っていたことも推測されるのです。 また陶磁器より漆の方が、なじみがあったことも間違いないでしょう
2「漆器は高級品で取扱いが面倒だと言うイメージがなぜ生まれたのでしょう?」
これは、現在の漆器が置かれている状況を考える上で大事なことです。 使う側からすれば、漆器を普段使いしなくなって、漆器本来の良さが わからなくなってしまったということもあります。 手入れが面倒だと言うことも、普段使っていない人、つまり手入れを した経験の少ない人ほど、頭だけで考えて面倒に思われる傾向にあるよ うです。手入れをするというようなことは、別に漆器に限らず、どのよ うな物でも同じです習慣の問題でしょう。たいていの人は毎朝の歯磨き を手入れを面倒だと言う人はあまりいません。漆器が日常に使われなく なった事に、所以するのかも 知れませんね。
3「本物の漆器は、なぜ高級品化したのか」
本堅地の漆器作りには大変手間がかかりますが、すごく手間をかけて 作った無地のお椀に、そんなに高い値段をつけられません。また手作り の市場も段々流通の変革にのまれ、こだわりの価値が伝わりにくくなっ ています。こんな現状では、いい仕事をすればするほど、職人さんたち は食べていけなくなります。だから、正月用品や置物など、美術工芸的 な方向へ向かざるを得なかったと云われても仕方がないでしょう。 使いやすく、質のいいものをちゃんと作り、それに見合った正当な価格 が堂々とつけられ、またその良さを知った人が買ってそれを使いこなす。 そんなふうになれば本物の漆器作りが成り立つのですが。
4「漆器は使えば使うほどに趣がますとは?」
溜塗や木地見せの透漆を塗った漆器は、年を経るごとに上塗漆が透き 上がり、下塗の朱みが増したり、漆越しに美しい木目が浮かび上がって きます。漆は生きものだと言われる訳もそこにあります。 化学塗料の場合ですと、使っていくうちにきれいになるなどというこ とはありえません。通常は、塗装したてのときが1番見栄がよく、後は つやなども失っていく一方です。その点本漆を使った漆器は、手にふれ 使う度に艶が増すのです。
5「良い漆器は下地づくりが大切」
下地を作る仕事というのは、素地を守るためのものです。それより後 の上塗などの仕事は器をきれいにするためのものなのです。実は下地づ くりの作業の方がはるかに大変なのですが、いつたん上塗してしまうと、 この部分は全く見えなくなるので、それだけにきちんとした仕事をして おかないと器が弱く、傷みやすいのです。使い込んで傷んでも、下地の 仕事が丁寧にしてある漆器なら塗り直せます。 しかし、下地作りをしない漆器もあります。木目の美しさをいかす漆器 には本下地を施しません。産地によって下地の加工は少しずつ違います。 本堅地で有名な輪島の場合、地の粉という珪藻土の一種を蒸し焼きにし て粉にしたものを漆と調合して塗り、堅牢な下地づくりをしています。
6「素地などの違いを見分けるには」
表面の、漆塗りとウレタン塗装の違いは一見しても判りにくいのですが、 まず においが違います。本漆には独特のにおいがあります、と云って も一般の人はこの判別法は困難かも知れません。
次は、価格差です、汁碗を例にとると、4・5百円から1万円以上の 製品まであり、千円以下でしたら、化学塗料と思って間違いないでしょう。
漆器と云っても、産地によって素地も違いますが、塗ってある漆の質も 違うのです。普通は安価なモノは品質表示がなされていますが、高級漆 器は逆に、制作者やお店の信用で取引きされているのです。変だと思れ るでしょが、良い方に解釈すると一筆では書けないほど、製造にこだわ りがあるのかも知れませんね。
素地の違いの判別についても書いてみます。 「合成樹脂製」( 添付画像の2番 )合成樹脂の上に直接カシューなどの代用漆かウレタン塗装を塗刷毛を使わず、機械で吹付塗装をしているのが普通。刷毛塗りをしないので、塗装の厚みがつきにくく、ぼっこりした塗りの雰囲気がありません。
木製と違い比重が重いので水に入れると沈む事も特徴。 「圧縮材製=木乾」( 添付画像の1番 ) 品質表示では、木質と表示されているモノで、木を細かくした物に合成樹脂を混ぜて、圧縮成型した素地を使用する。カシューなどの代用漆の吹付塗装が多い、中には刷毛塗りを施したモノもあります。
持ってみると以外と見た目より重く感じる。 「木製」( 添付画像の3番 ) 木製漆器でも、本漆を塗ったモノは少ないのです。
価格で云えば、1万円以上する物でしたら間違いないと思いますが、例外もあり、本漆を塗った物は、下地工程も丁寧にしてあります。木地にはケヤキなどを使うため、木目や導管が有るので、漆のなじみを良くするためにも、最初に生漆をしませるなど木地固めを含め、念の入った下地工程が必要です。
本漆の手触りは、独特のぬくもりがあります。年を経た物は、木の木目も表に現われてきます(素地のヤセの為)これは漆が素地と外気と完全に遮断するのではなく、微妙に木の水分を出入れしている事にも関係があるのです。
以上色々述べましたが、はっきり申しまして下地工程の処理の違いなど に関しては、目利きの人しかわからないのが現実です。だからこそ、本 物の漆器は”作り手の顔がわかるかたち”紹介がされることが大切です。
7「本物の本堅地漆器は、なぜ高価」
下地作りによっても違いますが、漆は丈夫だといつても、いっぺんに 厚く塗るとかえってもろくなってしまいます。適度の厚さに何回も塗っ ていくことで、漆器の丈夫さが生まれるのです。
また研ぐ作業は、次に塗る漆とすでに塗ってある下地面との接合を良 くするためのもので、仕上がりの塗面を平滑にする為にも下地研ぎは大 切です。無地の漆器の値段のほとんどは、塗り・乾燥・研ぐ、この繰り
返しの作業の手間代なのです。また研出蒔絵のように高度な加飾を施す 場合には、特にこの工程は、重要です。 本物の漆器が高価とされるのも、単に漆自体が高いとか,木製だから
というだけではありません。時間をかけて丁寧に作り上げていく、その 作業の値段だと思っても良いでしょう。
8「漆の乾燥とは」
乾燥といえば、普通は水分を蒸発させる事だと思いますが、漆の場合 は適度の湿度が必要です。普通の塗料の乾燥とは逆です。漆の乾燥とい うのは、空気が持つ酸素により、漆の主成分の酸化によって液体から固
体に変化し硬化するという事なんです。 少しだけ詳しく書くと、漆の中のラッカーゼという酵素の働きで、空 気中からの酸素を取り込み、漆の主成分のウルシオールの酸化を促し漆
が固体化するのです。また耐水性・防腐性・電気の絶縁性も高いので滅 多な事ではとけない丈夫さを漆は持っています。
9「漆がもつ神秘」
完全に乾燥した漆は酸・アルカリ・塩分・アルコールなどの物質に侵 されないのは当然、塩酸・硫酸・王水またガラスも溶かすフッ化水素に 対しても侵されないのです。
人間国宝の松田先生が、韓国の楽浪遺跡での出土漆器の調査と修理に かかわった感想で「二千年以上泥水に漬かっていた漆器の漆そのものは 少しも腐ってなく、泥を取り去ると光沢さえも残っていた。」と語ってい
たそうです。けれど近年日本の各地の遺跡でも、漆器が出土しています。 もっとも古い約六千年以前の漆塗りの櫛も石川県から出土しています。 遺跡の新たな出土で良く話題になるのが、漆器です。そんな古代から
漆が使われていたのもそうですが、驚く事に分析してみるとその櫛は朱 漆の調合をして何度か塗り重ねられたものだそうです。 ある研究家によると、漆には薬効もあるそうです、中国の漢方の本に
記載されているには、内臓の機能を補うとか、また切り傷にも効くとか。 そう云うと、明治生まれの親がアカギレ(冬の乾燥期に指先などが切れ ること)には、漆が良いと言っていた事を思い出しました。
10「漆はかぶれると聞きますが?」
店では十分に乾燥した漆器が売られているのが普通ですから、一般的 にはかぶれることはないはずです。しかし、急ぎの注文品が出来上がっ てきたような場合は、塗りあがった直後で、中までしっかり乾いていな
い事があるかもしれません。 特に漆に弱くて心配なら、売る人や作った人に完成時期を尋ね、三ヶ 月から六ヶ月くらいを経てから使い始めるとよいでしょう。中まで充分
に乾いた漆器は、完成直後より丈夫にもなっています。
11「漆器の魅力とは」
漆器は使い手の工夫によりおもてなしの楽しい演出の小道
具として、最近若い人たちにも、見直されてきました。テ ーブルコーディネートの組合わせに使ってみると、思わぬ デザインが出来ます。例をあげて見ると、片口を花活けに
使ったり、菓子器や盛器に使ってみてもいいですね。ほど よいお盆を御敷変わりにしたり、漆器の凛とした姿が焼物 ともマッチしますし。 加飾の美しさも漆器ならではの趣がありますが、何と言っ
ても、手触りや口当たりがいいし、柔らかな温かみがあり ます。使う頻度の一番多いのは汁椀でしょう。自分用の汁 椀を選んで使ってみたらいかがでしょうか。
使っているうちにだんだん手になじみ、色艶が一層出てきて、使って いる人なりの美しさを持つようになると思います。日本の昔ながらの生 活道具というのは、漆器に限らず、使わないでおくと姿も悪くなるもの
なんです。使い込むことで味わいを増していくものですから、身近に置 いてふれていないとだめですね。 皆さんも、是非お手元にある漆器を出してきて、愉しんでください。
12「漆器の手入れは具体的にどうすれば良いのでしょうか?」
まず気をつけるのは、陶磁器などと一緒に水につけておいたり、洗っ たりしないことです。漆がいくら強いものだといっても、陶磁器にぶつ ければへこみますし、こすれば傷がつきます。そういった心配を減らす
には、食事が終わったら、漆器だけを先に洗ってしまう習慣をつけたら 良いと思います。そうすると、汚れもこびりつきにくく、楽に洗え、洗 い終わったら、柔らかい布巾で水分を拭き取ります。そんなに神経質に
なることはありません。ぬるま湯に限らず、普通に洗物をする程度の湯 で洗えば、漆器は洗剤を使わなくても食べ物の汚れや臭いが落ちやすく、 水切れも良いということもあります。
また近頃では、食器洗い機や食器乾燥機を使う家庭が増えてきまし たが、急激な温度変化や湿度変化によっつて木地や漆膜が傷むため、漆
器には使用できません。同じ理由で電子レンジにも入れないで下さい。 普段に漆器を使う習慣が減ってしまったので、実感としてどう扱ったら
良いのかがわからなくなってしまったのはとても残念なことです。でも、 毎日漆器を使ってみれば、こういった手入れ方法は自分で納得がいくよ うになると思います。
けれども漆器は、擦り傷に弱いので引きずらないよう扱って下さい。
13「しまうときに注意することがありますか?」
漆器と漆器の間に、柔らかい木綿布、和紙などを挟んでおくとよいでし ょう(テッシュも使えます)。直射日光の当たらない北側の床に近いと ころに収納してください。きちんと仕事がしてある本物の漆器は想像以
上に丈夫なものです。 人間が生活できる程度の乾燥であれば、十分にたえられます。本物の漆 器でも、もったいないと何年もしまいっぱなしにしていると、いつの間
にか傷みがでるなど、もっと、もったいないことになりかねません。 せめて年に一度でも使って、洗って水分を補うようにして下さい。
14「漆器の丈夫さとは」
本物の漆器は丈夫で長持ちします。ただ、丈夫さの意味の基準をどこに 置くのかが問題です。我々が、毎日使う食器を考えてみたとき、どのく らい丈夫であってほしいか、口や手に触れる道具としてはどういうもの
を望むのか、それは人によってまちまちです。金属器もあれば陶磁器も ガラス器もあり、いろいろな食器とともに漆器も使っていくことで、そ の良さがわかってくるでしょう。
現代生活では、丈夫であるということより、雑な扱いに耐えられるとい う意味での丈夫さに、重きがおかれてきたと思います。その様に思って しまうと、漆器は決して丈夫とは言えないかも知れません。
けれども、漆器ほど多様な使い方に答えてくれる器はないように思いま す。使用を重ねて水をくぐったやきものは味が出てくるといいますが、 本物の漆器も、使うほどにおもむきが増してきます。漆ほど豊かな、多
様な性質を持った天然素材は滅多にありません。それを完全にコントロ ールすることはできないかもしれません。また食器洗機や電子レンジが 一般化している時代に、少し取り扱いがめんどうかも知れませんが、
漆器を扱うのも文化だと思うとそれも愉しい事ではないでしょうか。